こちら側の世界へ来ま千歌? 〜序章〜


 打倒・市ヶ谷麗華!!




 …私が澪(管理者注:寿零の本名)を利用して果たそうとした宿願…。

 その為になら、私はどんな手段でも躊躇わずに使ってきました…。
 
 しかし、そのせいで澪は、あの恐ろしい刺客(管理人注:メロディ小鳩のこと)によって命を(管理者注:死んでません)…。

 思えば私は悪い姉でした…。自分の身勝手な目的のために、あの優しい妹を…。

 かけがえのない犠牲を払ってしまいました…

 その上、私が初心である打倒・市ヶ谷をあきらめてしまったら、草葉の陰で私を見守る澪に顔向けできません(管理者注:大切なことなので二回言います、死んでません)!

 いまやあの成り上がり者は、JWI(ジャパン・レスリング・オブ・イチガヤ)とかいう団体を作り、お山の大将を気取っているとか…。

 このままにはしておきません! 必ずやあの下品な高飛車女を引きずり落としてやります!!




 そう、空に上った澪がなったと思われる星を見上げて誓っていたとき、爺が駆け込んできのです。

「お嬢様! 澪様を発見いたしました!!」

 なんですって! 私はすぐにも走り出そうとしました。しかし爺はそんな私を押しとどめて

「いけません千歌お嬢様。澪お嬢様のお気持ちをどうぞお察しください…」

 そ、それはどういう?

「澪お嬢様は千歌お嬢様をお助けするために刺客の前に身を投げ出したはず。それでも生きておられるということは…おそらく刺客の属する謎の組織に、千歌様ご助命の渡りをつけられなかったと思われます。責任感のお強い澪様はきっと、千歌様に顔向けできないと思われていることでしょう」

 そんな、私がそんなことを責めるはずが無いではありませんか。

「いえ、現に寿家にお帰りにならないのがその証拠。きっとその汚名をすすぐまではと思われているに違いありません」

 ふむ、確かにそのとおりね。あの澪であればきっとそのような高潔なことを考えているでしょう。

「ここはあえて澪様にも気づかれぬように、澪様の打倒・市ヶ谷麗華のお力添えをして差し上げるのが澪様のためでしょう」

 な、なるほど。

「加えて、まだ刺客が千歌様を狙っているのであれば千歌様が表に出るのもよろしくありますまい。ここは誰か代役を立てて、澪様に協力させるべきかと…」

 ふむ…。では爺、探しなさい。私の意志どおりに遅滞なく働き、なおかつ澪の邪魔をしない人材を!

「そのような人物についてはすでに調べ上げたうえで、実は屋敷に呼びつけてあります。こちらがその資料です」

 ? なんて手回しの良い…さすが爺…。なになに…。







その男はずいぶん挙動不審な様子でした。

 まるでこの程度の広さの応接室には入ったことが無い、とでも言うかのように落ち着かない。

 私が応接室に入ると、その男は慌てて立ち上がり、おそるおそるたずねてきた。

「あの…私はどうしてこちらに呼ばれたんでしょう…」

「越仁木元社長…数年前格闘技団体UWWFを立ち上げ一世を風靡するも、度重なる無謀な大会場でのイベント開催による経営不振、スキャンダルの発覚によりリコールを受け失脚。その後IWWFの雇われ社長に就任したが内部機密資料の持ち出し、不正利用、会社に不利益をもたらしたとして解雇。今では清掃業で日々の生活をつないでいる…」

 本人にコレといった能力は無く、拠り所も無いからもし私を裏切れば後が無い。

 うってつけの傀儡社長です。だからこそUWWFとかいう団体も、当時日本進出を狙ったIWWFも、邪魔にならないうちは社長の椅子を与えておき、逆らう気配を見せたら即追い落としたのでしょう。

 また先人がそのような扱いをしてきており、かつ何の痛い目も見ていないということは、そのように扱ったとしても復讐する意志力も能力も持ち合わせない人物だからに違いありません(管理者注:この文章はフィクションであり、実在の人物、団体、名称とは一切関係ありません)。

「あなたに、会社を一つ差し上げようというのです。やがて、日本一、いえ世界一のプロレス団体になる会社を」

 あっけに取られるその男…越仁木元…いえ、越仁木・現社長に、私は満面の笑みをもって応えた…。